傷と治療の知識
傷についてもっと詳しく
傷はいったい誰が治すのでしょう
傷は一体誰が治すのでしょう、怪我をしたときのことを思いだしてみましょう。
水道水で傷を洗い、消毒材が手元にあればそれを塗って、絆創膏を貼っておきます。
浅い傷なら此れで十分です。三、四日して絆創膏をはがすと、傷はもうきれいにくっついています。
ざっくりと口を開いていたら、血がなかなか止まらないでしょうし、やはりお医者さんにかかって、縫ってもらいますね、そして一週間ぐらいして、糸を取ればもう傷はしっかりくっついてくれています。
つまり、傷はピッタリと寄せておけば、一人でくっついてくれるのです。医者が治すわけでもないし、まして絆創膏が治してくれるわけでもないのです。医者も絆創膏も、唯手助けをするだけです。
此のように人間の体には自分で自分を治す力が備わっているのです。これを我々は自然の治癒能力と呼んでいます。
この自然の治癒能力を皮膚で眺めてみようというのが、このホームページの目的です。
生物は外敵に囲まれています。例えば微生物等のほかにも外傷や化学物質による侵襲、気温の変動等が其の例です。その防御壁となるのが皮膚の役目です。
この他に、皮膚には体液の漏出を防ぎ、体内の環境を維持する大切な働きが有ります。
つまり皮膚は外敵から身を守り、叉内部環境を保護するという、体の内外両方向に働く防御壁なのです。
その皮膚が破れれば、生体は生命の危機に襲われます。生体は何としてでも迅速に破れを補修しようとしまするのは当然のことでしょう。つまり生体にとって、皮膚の修復機能は最も大切な治癒能力の一つなのです。そして破れた皮膚は可及的早く繕わねばなりません。
物理学には 自然は真空を嫌う、という有名な言葉がありますが、生物学では生命体は開放創を嫌うと言っていいでしょう。
そのために高等生物は、皮膚の修復のために特別な工夫をしました。
つまり修復のための専門の部隊を編み出したのです。此れは傷を受けたときに動員される組織であって、普段は存在していません。しかもこの部隊は固定した編成でなく、其の時々に応じて編成替えを行っていく、特殊部隊なのです。我々はこれを其の時期によって、肉芽組織と瘢痕組織と呼ぶことにしています。
傷の修復の初期には肉芽組織と言う軍団が現れ、ダイナミックに修復を行って傷口を塞ぎ、それがやがて瘢痕組織に置き変わって安定するのです。
このように傷の治りに関する私どもの知識は、殆どが皮膚についてのものです。
これは皮膚の修復が生体にとって最優先課題であるばかりでなく、表面なので観察が容易で、実験もしやすいということもあります。そして肉芽組織、瘢痕組織という修復部隊は、皮膚以外のからだのどの臓器でも、同じように活躍します。つまり皮膚の創傷治癒の過程が解明されれば、其の侭他の臓器にもその侭当てはまるからなのです。
そこでこのホームページでは先ず皮膚の働きを調べ、其の修復の過程をミクロのレベルで探り、更に最近の分子生物学の知識を適用して、分子レベルでのメカニズムの解明を試みます。
そして何故目立つ傷跡が残るか、傷跡の諸相を眺め、分子生物学的手法により瘢痕組織の生物学的コントロールの可能性に触れたいと思います。