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  1. 2011.04.06「不適切な湿潤療法による被害 いわゆる“ラップ療法”の功罪」

日本皮膚科学会の学会誌にて「ラップ療法の功罪」について土浦協同病院皮膚科の盛山吉弘氏が論じているのでご紹介したい。以下は氏の論文をまとめたものである。

不適切な湿潤療法による被害 いわゆる“ラップ療法”の功罪

日本において近年、創傷管理の基本理論のひとつのキーワードとして挙げられているmoist wound healingだが、その理論をもとに食品用ラップを用いて簡便に湿潤環境を作り出す「ラップ療法」が広く行われている。しかし、その理論の誤認による不適切な治療で多くの被害者が生まれている。

かつて、傷は乾燥させるべきという考えが主流であったが、1962年にwinterが発表した論文を契機にmoist wound healingの概念が急速に広まり、その後多くのエビデンスが集積されたことで創傷管理の基本の一つとして定着し、広く臨床応用されるようになった。

本邦ではmoist wound healingの理論をもとに、2000年頃より食品保存用のラップを用いて簡便に湿潤環境を作り出す、いわゆる“ラップ療法”が広く行われるようになってきている。これは微温湯(水道水)で洗浄後、食品用ラップを創部に大きめに当てるという簡便な処置法であるが食品用ラップは、水蒸気の透過性は考慮されていないため、周囲皮膚の浸軟を起こし、バリア機能の障害を起こすだけではなく、特に夏季には悪臭を放ち、膿痂疹、毛嚢炎、真菌症などを高率に発生する。また最近では、台所用穴あきポリエチレン袋と紙おむつを利用し、浸出液のコントロールを考慮した、ラップ療法の変法も広く施行されているが、浸出液が非常に多い場合は食品用ラップと同様の問題が起こりうる。

“ラップ療法”は、人手もなく、経済的にも苦しい、病院以外の施設や在宅などで、いかに安価で効率よく、創傷(褥瘡)を治すかという善意のもとで、開発され広まった治療法であるが、様々なトラブルを惹起してきた。そんな中、2010年3月に日本褥瘡学会理事会の見解として以下が示された。

『褥瘡の治療にあたっては医療用として認可された創傷被覆材の使用が望ましい。非医療用材料を用いたいわゆる「ラップ療法」は、医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な在宅などの療養環境において使用することを考慮してもよい。ただし、褥瘡の治療において十分な知識と経験を持った医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである。』

最近では、特にテレビなど短時間の一般市民向けの情報で“ラップ療法”を取り上げる際、適応を誤った際の危険性にはほとんど触れず、簡便性・有用性のみが強調される傾向が見られる。これを一般市民が鵜呑みにし、医師や看護師などが介在せず、自分たちの判断のみでラップ療法を用いた場合、様々な問題が今後ますます増えていくことが危惧される。

具体的に、滲出液や壊死組織の多い創、糖尿病や末梢動脈疾患を持つ患者の創、原因不明の傷に対しては、ラップ療法は禁忌であると啓蒙していくべきなのではないかと考えている。ラップ療法の是非については、今に始まった議論ではないが、一般市民に浸透しつつある今、日本皮膚科学会としても、正しい知識を積極的に啓蒙する時期にきていると考える。 引用) 日皮会誌:120(11),2187-2194,2010(平22)  土浦協同病院皮膚科 盛山吉弘

またラップ療法の危険性について、盛山氏から一般の方向けに、次のように解説していただいた。

キズの治療法で最近話題のラップ療法について

食品を保存するためのラップを傷口に当て、傷を湿った環境に保つことによって、傷を早く治そうという治療法が最近広まってきています。

一昔前まで、“傷は乾かせ!”といわれていました。それは、乾かすことによって細菌の繁殖を防ぐことができるからです。しかし、細菌が繁殖しにくい利点と共に、水分を必要としている自分自身の細胞も増殖しにくいという欠点があります。線維芽細胞や表皮細胞といわれる自分自身の細胞が増殖しなくては、傷は治りません。

そこで、近年では、傷口は適度に湿らせた環境におくのが良いとされるようになりました。ラップ療法は、この理論に基づいた治療法です。自宅でも簡単にでき、しかもラップ自体の材料費が安いことから、特に床ずれの処置法として急速に広まってきています。

ラップ療法を行う際の注意点として、まず傷口をよく洗って菌を減らすということが重要になります。傷を湿らせた環境におくということは、傷が治りやすい環境であると共に、細菌も繁殖しやすい環境だからです。傷自体からでる水分が非常に多かったり、壊死組織といわれる死んでしまった組織が傷口にある場合などでは、ラップ療法は危険です。このような場合に、ラップで覆ってしまうと爆発的に細菌が繁殖してしまいます。また、糖尿病などで免疫力が落ちている人の傷にラップを貼ることは同様に危険です。爆発的に増えた細菌は、傷口から血液の中に入り込み敗血症性ショックと言われる状態をおこすことがあります。敗血症性ショックでは、細菌が全身を駆け回り、血圧が低下し、一歩間違うと死に至ります。

傷の状態をきちんと評価できない人が、簡単で安価だからといって、気軽にラップ療法を行うのには危険が伴います。このことを医療に携わる人も、逆に医療を受ける人も知っておいて頂きたいと思います。

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