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  1. 2010.11.17いわゆる『ラップ療法』に関する日本褥瘡学会理事会見解について

〈寄稿〉「いわゆるラップ療法」について医療安全の視点で整理してみましょう

高水 勝
スリーエム ヘルスケア株式会社 医療用製品事業部 事業企画部

1:はじめに

平成22年3月3日に、日本褥瘡学会から、『いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解について』が発表されました。マスコミでも話題に取り上げられることが多いラップ療法について、医療安全の視点から課題を整理してみたいと思います。

まず、創傷治療の歴史的背景をひも解いてみます。紀元前2500年に「傷を洗ってから蜂蜜と樹脂でドレッシングした」とあるのが最古の創傷治療の記録のようです。近代ドレッシング(モダンドレッシング)である「湿潤環境による創傷治療」は、1962年にイギリスの動物学者ウインター博士が「湿潤状態にある傷は、乾いた傷に比べて2倍の速さで治る」ことを動物実験で実証したことが始まりです。このときに使った材料がポリエチレンフィルムでした。

その後、人間のもつ創傷治癒能力を効果的に引き出すことで傷を早く治せることを、世界中の学者や医療機器メーカーが科学的に証明し安全性や有効性を確立し、1980年代に製品化されました。現在、日本では医療機関向けの創傷被覆材だけでも40種類を超えています。これらの製品のポイントは、薬効成分がなくても、傷を湿潤状態にするだけで効果的に早く治ることです。
さて、下記が、日本褥瘡学会の『いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解について』になります。

いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解について
見解提示の背景
高齢社会の到来や病院機能分化の進展に伴い、褥瘡診療は病院だけでなく在宅や介護施設など多様な場に広がっています。そのような状況において、医療用の創傷被覆材の入手が困難な療養環境では非医療材料を用いた、いわゆる「ラップ療法」が広く行われています。しかし、多くの病院では日本褥瘡学会ガイドラインに基づいた診療が行われており、病状に応じて多様な療養環境を行き来する患者や家族にとっては療養環境ごとに診療指針が異なることに対して不安を感じることもあるのではないかと思います。また現場で実際に褥瘡の診療にあたる医療スタッフの間にも一部混乱がもたらされています。このような現状に対して日本褥瘡学会理事会として、いわゆる「ラップ療法」に対する見解を出すことが必要と考え、シンポジウム開催などにより議論を深めてきました。今回、いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解を提示することで学会員のみなさんがこの見解の意図するところを十分に理解していただき、褥瘡診療における現場の混乱の解消につながることを期待しています。

いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解
褥瘡の治療にあたっては医療用として認可された創傷被覆材の使用が望ましい。非医療用材料を用いた、いわゆる「ラップ療法」は、医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な在宅などの療養環境において使用することを考慮してもよい。ただし、褥瘡の治療について十分な知識と経験を持った医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである。

今後の方針
今後、日本褥瘡学会として、いわゆる「ラップ療法」の有効性、安全性、方法論について学会のシンポジウムなどを通して検証を続けることにしています。学術委員会が作成している次回ガイドラインには何らかの形でその評価を掲載するよう準備しています。

日本褥瘡学会理事会(2010年3月3日)

2:材料・手技等 多様化しているラップ療法について

いま世界レベルでは医療機器として認可された「創傷被覆材」が100種類以上販売され、湿潤療法は定着していますが、日本では「ラップ療法」という名称で、食品用ラップや穴あきビニール袋のような日用雑貨を創傷治療に転用した方法が在宅を中心に浸透しつつあります。「湿潤療法は理論としても実践としても確立されているので、高価な医療機器のドレッシング材を使わず、安価な日用雑貨の応用でもかまわない」という考えもあり、主に食品用ラップを使ったことから、ラップ療法とよばれるようになりました。

現在では、「ラップ療法」も、使用材料や適応症例、手技などにおいて多様化しています。このような背景のなかで発表されたのが、日本褥瘡学会の『いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解について』です。

3:いわゆるラップ療法についての論点整理

それでは課題を整理してみましょう。
(1)「ラップ療法」の定義の課題
 医療機関向けで保険償還も適応になる創傷被覆材以外にも、家庭向け医療機器としてのドレッシング材があり、それを前提に整理します。
 (ア)「材料」は、医療機器を使うのか、医療機器以外の日用雑貨を使うのか?
 (イ)「傷への手技」として、傷の選択、使用方法、交換頻度はどのようなものか?
 (ウ)「使用場所」は、医療機関か介護施設か在宅か?
 このように、「材料」と「手技」と「使用場所」をどのように組み合わせたものを「ラップ療法」と定義するのかは議論をするときに重要です。

(2)製品関連の法律上の課題
 (ア)医療機器は安全性と有効性を試験によって担保しています。
 (イ)目的外使用については、ラップ、穴あきポリ袋等のメーカーの責任はありません。

(3)医療関連の法律上の課題
 (ア)保険診療においては、医療材料について患者さんから費用を徴収することはできません。
 (イ)インフォームドコンセントは「利便性(効果・経済性)」と「リスク(効果がない可能性、副作用等)」を明確に説明する必要があります。

 (ウ)看護師等が、単独判断で「処置」などの治療行為やそれに係る材料選択や評価をすることは、インフォームドコンセント以前に職務権限の面でできません。

(4)ガイドライン等での扱いの課題
 (ア)「ガイドライン」とは関連法令に抵触しないことを前提に、職務権限のある者であれば誰が実行しても同じ効果がある程度期待できる指針といえます。よって、看護師等が本来単独では実施できない「処置(治療)」について、材料の選択や製作方法、患者への適応の判断、実際の処置や評価をする方法について記載することは、記載の内容によっては混乱をまねく可能性があります。

4:適切にポイントをおさえた日本褥瘡学会の理事会見解を読み解く

この観点から、今回の日本褥瘡学会の理事会見解は、適切にポイントをおさえたものと考えられます。
「医療用として認可された創傷被覆材の使用が望ましい」と、まず大原則を確認したうえで、
(1)「いわゆるラップ療法」を「非医療用材料」を使用する行為とし、

(2)使用場所について、「医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な在宅などの療養環境において」、すなわち、医家向け、家庭向けを問わず、医療機器が手に入らない場合と限定し、

(3)使用については、「考慮してもよい」と、使用の推奨はしないが、裁量権の関係で禁止もできない実態を汲み取ったうえで、各自の判断とし、

(4)その判断をできるのは、「褥瘡の治療について十分な知識と経験をもった医師の責任のもとで」とありますから、看護師などのコメディカルはもちろん、医師であっても、褥瘡に経験が浅い場合には不適切であると明確にしたうえで、

(5)その条件を満たした場合においても、「患者や家族に十分な説明をして同意」を得ることを明記し、インフォームドコンセントだけを目的とせず、インフォームドコンセントに至るまでを一連の行為として整理しています。

5:非医療機器を医療に転用することへの医療安全からの警鐘

今回の日本褥瘡学会の理事会見解は、医療機器が選択使用できる環境にありながら、非医療機器(非医療材料)の日用雑貨等を転用使用することへ警鐘を鳴らすものでしょう。医師には大きな責任と同時に自由に判断できる裁量権がありますので、一般的な医療行為についての課題は、その裁量権のなかで解決できると考えられます。

しかし、チーム医療や在宅医療が叫ばれるなか、医師以外の医療従事者がかかわることが多くなっているのも事実です。そのようななかで、医師の責任、医師の判断という文言だけが形骸化して、実際は医師以外の医療従事者が判断し、使用するような事態は、医療安全の基本姿勢として避けるべきでしょう。

現在の医療安全は、医療行為の安全、医療体制の安全、製品の安全、そしてそれぞれの判断、記録を行うことによって、責任の所在を明確にし、万一、問題が発生したときには、可能なかぎり原因を特定し、再発の防止を機能的にかつ客観的に実現していくことを求めています。

「DPCで包括医療だから……」「在宅だから……」「高いから……」「効果に差がないから……」という理由(本音)をカモフラージュするかのように、「医師が判断するから法的に問題ない」という大儀をつけて非医療機器(非医療材料)を使用するような流れは、患者の保護、医療体制の保全、医療安全の観点からは検討が必要でしょう。2010年の診療報酬改定で新設された「局所陰圧閉鎖療法」についても、医療機器ではなく独自に製作した「いわゆる自家製局所陰圧閉鎖療法」との関係について、同様の課題をよく耳にします。

このような「いわゆるラップ療法」や「いわゆる自家製局所陰圧閉鎖療法」に代表される「自家製……」という創意工夫型、あるいは適応外使用の材料を使った医療行為については、安全性を含めて、すべての責任を医師および医療機関が負うことになります。「医師(医療機関)が責任を負えば何でもできる」という裁量権は、本来、医療行為に対する医師の決定の自由と責任を明確にすることで、医師が最善と考えられる医療行為の実施を支持したものであり、決して医療安全を保証するものではありません。

このような問題のいくつかは、医療現場の実態と、制度のギャップに端を発している面はありますが、医療提供行為の基本に立ち返り、患者のために、創傷治療を改善する視点で、医療安全を含めて議論をするよい機会にしていただきたいと思います。

****

本内容は、医療マネージメント学会監修誌「医療安全」No.25(発行:学研メディカル秀潤社 2010年8月20日発売)に掲載されたものを、改訂したものです。

高水 勝 (たかみず・まさる)
スリーエム ヘルスケア(株)医療用製品事業部 事業企画部
(財)日本医業経営コンサルタント協会 認定登録医業経営コンサルタント
日本医療器材工業会創傷被覆材部会長

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