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湿潤創傷治療

■ココナッツグローブ大火

第二次大戦の最中、アメリカでは戦場での大量の熱傷患者の発生に備え、いかに最小の手間で、迅速に対処できるかの研究を進めていました。その一つとして、それまでの手のかかる消毒法や、包帯をやめて、消毒も抜きにして、唯ワゼリンガーゼでぐるぐる巻にしてすることが検討されていました。

丁度その頃、ハーバード大学の外科の教授、オリバー。コープ博士は、火傷の皮膚をタンニン酸でかわかす従来の熱傷治療に疑問を抱き、新しい方法を試みていました。

それまでは火傷に対しては先ず水泡を破り、タンニン酸で皮膚を羊皮紙のように固めて、かさぶたのように保護膜とし、更に色素を染み込ませて抗菌作用を期待するという面倒な方法が主流でした。これは面倒なだけでなく、かさぶたの下に膿がたまり、かえってひどくするのではないかと考えたのです。

水泡液には創面にプラスな物質が含まれているに違いない。叉水泡膜は保護膜になるのではないかと言うのが博士の考えでした。つまり、余計なことを先ず省いてみようということです。

たまたま博士は自分の姪が手に火傷をしたとき、家族によく訳を話して、水泡を破らずに、叉タンニン酸も塗らずに、きれいに治し、確信を深めたところでした。丁度この研究は戦時下の国の思惑とも合致し、相当額の予算を国から受けて、実用化に向けて体制を整えていたところでした。1942年のことです。

其の秋、ボストンのナイトクラブで大火事が発生し、五百人以上の重症の熱傷患者が発生しました。

大戦の最中、我々は食うや食わずで防空壕生活をしていたときに、ナイトクラブでどんちゃん騒ぎ等、彼我のゆとりの差を感じさせますが、たまたまその週はアメリカの感謝祭の連休で、叉ボストンカレッジのフットボールの試合とも重なって、街はお祭り騒ぎで沸き返っていたのです。

重症の患者達はまず、ボストン市立病院に運ばれましたが、すぐ満杯となり、残る患者はすべてコープ博士のマサチューセッツ総合病院に搬入されました。そこでは数百人の熱傷患者を一時に治療するという、前代未聞の必要に迫られて、検討中であった、いわば最大限手を抜いた治療方針を適用したのです。処がその結果は、今までの手の込んだ処置よりも、かえって成績が良いことがわかったのです。

そのナイトクラブがココナットグローブという名前だったので、ココナットグローブ大火としていまだに外科の教科書に引用されています。

此れを機会に、今までの火傷を含めた総ての傷の処置が見直され、余計な操作を一切省いた処、熱傷の死亡率もぐんぐん下がり、今世紀の中ごろにやっとリスター以前に戻ったというわけです。

二十年程前、熱傷視察団の団長としてマサチューセッツ総合病院を訪れて、コープ博士から直接一時間ほどお話を伺ったことがあります。、あの大惨事にたいし、如何に病院を挙げて救命に取り組んだか、叉其のときの経験がその後の熱傷治療をどう変えていったか、30年以上も昔のことになるわけですが、克明に且つ淡々とはなされたのが印象的でした。

■モイストウンドヒーリング

ココナッツグローブの大火で、火傷の治療に革命をもたらした、コープ博士同じ考えを、動物実験で立証したのが、イギリスのウィンター博士です。

彼はねずみを使った実験で、傷口から浸み出でる液が創面にたまっているほうが、乾いた創面より治りがよいということを、つきとめました。難しい言葉で言えば、表皮細胞は湿潤環境で、より迅速に分裂、移動するという事実です。

ウィンター博士が動物学者であった為、この発見はすぐには臨床医師の目にとまりませんでしたが、やがてイギリスの医療企業の一つが、実用化に着手します。

それはスミスアンドネフューという会社で、ちょうど医療用にポリウレタンのフィルムを開発していました。手術の際、使い捨ての消毒布として使う為です。これを多少改良して使ったところ、非常に具合がいい。元来の目的以外に、いろいろなメリットもあることがわかりました。

その後、湿潤環境を保つ被覆材がいろいろと開発されましたので、これらを従来のガーゼと区別するために一括して、モダンドレッシングと呼ぶことにします。

xその特徴を列記しますと

  1. 元来の目的である閉鎖性は達せられる。
  2. 酸素水蒸気透過性は充分ある。
  3. ガーゼと違い、創面に固着しないので、交換の際表皮を傷つけない。
  4. ドレッシングは交換するたびに表面温度が下がり、これは創傷治癒を遅延させるが、この方法では頻回の交換を要しないので治癒が促進する。
  5. 浸出液はサイトカイン、成長因子に富み、創面にプラスに働く。当初、一番恐れられたのは、傷口をふさぐことは感染を誘発するのではないかということでした。
  6. ところが汚染のひどい場合は別として、通常の傷では、モダンドレッシングのほうが、ガーゼより感染率が低いことがわかりました。
    これを実験室と臨床の場でキレイに立証したのが、コンバテック研究所のハッチンソン博士とミシガン大学のスミス教授のグループでした。

このように、熱傷、採皮創、潰瘍等すべての創面において、モダンドレッシングを使った湿潤環境のほうが優れていることがわかります。

モダンドレッシングとしては、浸出液があまり多い場合は、ある程度ドレッシングに沁み込ませ、適度な湿潤環境を保持したほうがよいことがわかり、ハイドロコロイド、ハイドロゲルさらにはアルギン酸など、創面にあたる部分に関してはいろいろな材質が開発されて今日に至っています。詳しいことは創傷被覆材の項をご覧ください。

モダンドレッシングの中で最初に開発されたプレーンのフィルムは、「フィルムドレッシング」と呼ばれることがあります。

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