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やけどと皮膚移植

やけどの重症度、その範囲の深さ

ここでは、専門家でも頭を悩ます重症な熱傷よりも、日常遭遇するありふれた軽い熱傷についてのお話を中心にしてみたいと思います。まず、私どもが、どこで軽い重いの線を引くかというところから始めましょう。

熱傷の場合には、まず体表面積の何パーセントがやけどしたかという範囲の問題があります。これを私どもは、「9の方則」という図式でおおざっぱに計算します。
また、深さの問題があります。普通1度、2度、3度と順に深くなります。1度は日焼けと同じで、ただ赤くなって、ほうっておいても消えてゆき、治療の対象にはなりません。3度というのは、皮膚の全部の厚さが焼けてしまう場合です。普通は皮膚が白く羊皮紙のようになってしまいます。もちろん、黒こげになっていればそれ以上で、これを特に4度、5度と分けている人もいます。

最もむずかしいのが、その中間にある2度のやけどです。厳密にいうと、皮膚の中途の深さまでやけどしている場合です。普通は水ぶくれをつくります。これをさらに浅い場合と深い場合に分けています。浅い場合は、水ぶくれのあとが赤くただれてヒリヒリと痛みますが、適切な処置で2〜3週間で自然に皮膚が張ってきます。

深い2度の場合は、どちらかというと白っぽく見え、さわった感じも鈍くなっています。ほうっておいても、なかなか皮膚が上がってきません。表面の白い死んだ皮膚が脱落して、そこに残ったわずかな皮膚のある部分から再生が行なわれます。自然に皮膚が張るのには非常に時間がかかるので、普通は植皮が必要になります。つまり、同じ2度のやけどといっても、深い場合には結果的には3度のやけどと同じように植皮が必要になるので、2つに分けているのです。

やけどの範囲を計算する場合、1度のやけどは除外し、2度と3度のやけどを合わせて、体表面積の15パーセント以上のものを重症とし、一応入院治療が望ましいとされています。

小児の場合は、10パーセントくらいでも重症と考えて、入院させたほうがいいでしょう。

経過別やけどの治療法

やけどの治療は、時期的に初期、中期、後期とに分けています。初期というのは、やけどをして数日から1〜2週間の間です。重症の場合には、まず補液によるショックの対策を考えます。同時に、やけどした部分への局所の治療を施します。この局所の治療には抗生物質入りの軟膏や、さまざまな被服剤が開発されています。

浅い2度の場合には、一応これで自然治癒するわけですが、深い2度か3度の場合には、傷口をとじるために植皮が必要になってきます。この時期が中期です。早い場合には数日で植皮を行ないますが、普通は1ヵ月前後が適当とされてきました。2ヵ月以上も傷口がとじない場合は、いくら軟膏療法をつづけてもむだですし、またかえって後遺症を残します。

熱傷が広範囲の場合に、必ずしも1〜2ヵ月で全部植皮が可能とは限りませんが、全身状態が許す限り、一応1ヵ月ぐらいから植皮を始めてゆくのが現在の考え方です。

前腕3度のやけど

植皮直後

半年後

また、早く植皮をすることによって、全身状態も改善されてゆきます。自分の皮膚だけで足りないときには、親類縁者の皮膚を借りることもありますが、これはあくまでも一時的なおおいにすぎません。心臓移植のように、生着して機能を営むということは、皮膚の場合には望めません。

こうして、一応傷口がおおわれたあとは、半年〜1年と傷あとの経過を追ってゆきます。そうすると、いったんなおったように見えたところにもまたひきつれを生じたり、色が脱色したり、また反対に茶色に色素沈着を起こしたり、ハゲの部分が残ったり、というよう後遺症を生じます。

このようにして生じた問題を1つずつ再建してゆくのが後期の治療の目的です。十分に時間をかけて修正手術の必要性を検討することがかんじんです。初期の治療と違って、ほうっておくと手おくれになる、といった問題ではないからです。

自分以外にたよれない皮膚移植(植皮)の現状

最近では植皮という言葉も普及して、傷あとの修正に患者さんのほうで「植皮を」と希望されることがあります。確かに形成外科の発達で、植皮の技術も最近は格段に進歩しました。昔は考えられなかったような植皮の方法も可能になりましたし、またその結果も、目をみはるようなものが出てきました。しかしまだまだ植皮は万能ではなく植皮したから(まったくあとかたなく)なおせるというわけでもありません。植皮というのは、あくまで皮膚の欠損が大きくて、それ以外にふさぎようがないときに用いる手段だと考えてください。

また、腎移植や心臓移植など他人の臓器の移植が可能になり、少なくも半永久的に成功するようになってきた今日でも、皮膚だけはまだ、他人の移植(ホモグラフトと呼んでいます)は、一卵性双生児を除いて成功例がありません。皮膚よりももっと複雑な心臓や腎臓で成功して、なぜ皮膚ではできないのか、これはむずかしい問題です。心臓や腎臓の場合でも、成功したといってもどこまで永続性があるかは問題ですし、また、拒否反応を押えるためにいろいろな薬を使うので、患者自身の生活力はそうとう押えられてしまいます。

いってみれば拒否反応というのは、他人の組織を受けつけないという、固体が存在するための必要な防御反応です。他人の臓器が寄生しても、それを拒否しないということは、やはり防御反応を打ちこわした不自然な状態におかれていることになります。心臓や腎臓のように、その臓器が完全にだめになってしまい、本人のからだの中にスペアを求めることができないという場合には、これもやむをえないでしょう。

ただ皮膚は、重症の熱傷のときを除いてほとんどの場合、何かの形でからだの他の部分からスペア・パーツ(予備の部分)をさがして移植することができます。よく100パーセントのやけどが助かった、ということを耳にしますが、こういう場合でも全部が深いやけどということはありえませんし、またごくわずかでも焼けていない部分が残っているのが普通です。私どもは、重症のやけどの場合には、こういう部分を懸命に求めて、場合によれば同じ場所から2度、3度と採取します。

重症のやけどで命があぶないというときは、このようにどこでも取れるところから皮膚を取りますが、傷あとの修正などの意味で植皮を行なうときには、また話が違ってきます。ここで植皮ついて2、3の問題点をとり上げてみます。

植皮の必要な場合

傷あとや皮膚の欠損があるからといって、すぐに植皮ということにならないことは、先にふれたとおりです。植皮を考える場合は、おおざっぱにいって次のような3つの場合があります。

  1. 広範囲に皮膚がなくなってしまって、回りから寄せてとじたりできない場合。この最もよい例は、範囲が広くて深いやけどですが、そのほかに、たとえば大きなあざを取った場合、皮膚ガンを手術した場合などです。どの範囲までとじられるかというのは、回りの皮膚のゆとりにもよります。したがってその場所とか、年齢とか、個人差もありますが、まぶたや鼻などはこういう点で非常にゆとりが少なく、すぐ皮膚の移植が必要になりますが、おなかや背中などはそうとう広い範囲の皮膚欠損でも、無理なく寄せることができます。
  2. 傷が不安定な場合。やけどの傷が、いったんなおったように見えても、くずれてはなおり、くずれてはなおりを繰り返すことがよくあります。こういう場合には、しばしば皮膚の移植が必要になります。こういうときにはたいてい、割合に広い範囲の傷口があって、それが自然に収縮しながら皮膚でおおわれていった場合です。回りの皮膚が、引き寄せるだけ引き寄せられていて緊張が強いことと、薄い皮膚がかぶさっているだけでなおってしまっているので、少しこすれただけでもまたくずれてしまいます。このようなときは、やはりその部分の傷あとを十分にとり除き、余裕のある皮膚を移植することが必要になります。
  3. まったく美容的な意味で皮膚移植をする場合。やけどなど一応なおってはいても、テラテラと少しひきつれたような感じが残っている場合、皮膚移植を行なうことがあります。この程度の皮膚移植が、いちばんむずかしいとされています。多少は目立っても一応なおっている傷を、また手術して皮膚移植するわけですから、失敗が許されません。
    また皮膚も、ただついたというだけではなく、回りとくらべてほとんどわからないくらい改善されなければ、植皮した意味がなくなります。ある意味で、目立つ傷の場合には気が楽ですが、あまりわからないような傷あとのときには、むしろ手術を控えるようにします。植皮の効果というのは初めの傷の状態とあまり関係なく、ある一定の結果までしかゆきませんので、最初が目立つ傷のほうが、手術の効果はあげやすいということになります。

植皮の種類と方法

実際に植皮を行なうことになった場合、どこの皮膚をどのように使うかということも考えなければなりません。

  1. 隠せる場所の皮膚を使う。皮膚を採取した部分は、多少なりともあとが残ります。傷あとの修正のために、目にふれる部分にまた傷をふやすことは目的に反しますので、なるべく下着や海水着などで隠せる部分から皮膚を採取するようにします。広範囲のやけどのときにはもちろんこんなこと言っていられませんが。
  2. 性質の似た皮膚を使う。同じ皮膚でも、場所によって色や厚さが違います。移植する部分になるべく近い皮膚を持ってゆくようにします。実際には、そのように性質の似通った皮膚というのは、その持ってゆく場所に近い部分の皮膚がよいことが多いのですが、顔などであまり同じ場所に傷をふやしたくないときには、耳のうしろとか、首のつけ根のように隠しやすいところ、そしてしかも性質の似通った皮膚のあるところから採取するようにします。

こうして本人の皮膚を使うのを、自家移植と呼んでいますが、この自家移植にもいろいろな方法があります。薄く取ったり厚く取ったり、また場合によっては、脂肪や血管をつけたまま動かすこともあります。これらはあまりに専門的ですから、くわしい説明は控えます。ただおおざっぱにいうと、薄い皮膚のほうがつきはよいし、取ったところにもあとが残りません。しかし耐久力に乏しいことがあるので、しばしば一時的なカバーとして使われることが多いものです。
また、やけどの範囲が広いとき、2度、3度と同じ場所から取るためには、やはりそうとう薄い皮膚を取らなければなりません。反対に厚い皮膚は、いろいろな点で手術操作も繁雑になり、完全に100パーセントつかせるのは、そうとうな熟練を要します。しかしいったんつけば薄い皮膚よりもずっと回りともよくなじみ、耐久性もあります。

植皮の失敗

最近では技術も進んで、通常の植皮で失敗するということはあまりなくなりました。しかしどんな手術でも、100パーセント必ず成功するという保証はありません。植皮の場合もまだ2〜3の問題点が残っています。

  1. 植皮がつかない場合。全体に植皮がつかない場合と、部分的につかない場合とがありますが、ほとんどの場合、植皮片と、その下の組織との間に出血を起こした場合です。これを防止するために、厳重な包帯をしますが、患者さんに安静を保たせるのもこのためです。小さな手術でも、植皮した場合には、できるだけ入院をすすめるのもこのためです。
  2. 感染した場合。きれいな傷に植皮をしたときはまず起こりませんが、やけどの場合には、どんなに消毒しても完全にバイ菌を退治することはできません。傷の状態が十分にきれいになったところで植皮を行なうわけですが、やはり多少のパーセントで小範囲の感染は避けられないことがあります。出血であれ感染であれ、広範囲に皮膚を失った場合には、また時期をみて植皮のやり直しをすることになります。範囲が狭ければ、回りから自然に皮膚がはえてくれますが、やはり目立つ傷あとを残すことになります。
  3. 植皮のあとが目立つ場合。一応皮膚はついたが、あとで目立つようになる場合があります。その一つは、皮膚の継ぎ目がだんだん盛り上がって、いわゆるケロイド状になってくる場合です。これも一般の傷あとと同じで、だいたい、時間がたてば平らに白くなってきます。ひきつれがなかなかとれない場合には、その部分だけ修正手術を行ないます。

また、植えた皮膚が回りよりも色が濃くなることがあります。ちょうど日焼けしたようになるわけです。白人にはあまり見られませんが、日本人には非常に多く、美容を目的として皮膚移植をしたときなどは、ほんとうに困ってしまいます。どちらかといえば、薄い皮膚を植えた場合に起こりがちです。
また、皮膚の移植をしてすぐあとに直射日光で焼くと、黒く日焼けして、これが数年たってもなかなかとれません。どんな皮膚移植であっても、移植してから2年間は直射日光を避けるようにというのはこのためです。
いったんきれいについた皮膚がだんだん縮んでちりめんじわのようになることがあります。これも色が黒くなるのと同じで、薄い皮膚の場合に見られます。場所としては、首、わきの下のようにくぼんだところへ植えた皮膚によく起こります。
これを防ぐためには、皮膚がついてからその部分をフォームラバーのようなもので圧迫したり、また、関節をなるべく伸ばしたような状態に保ったり、いろいろなくふうをします。また、コールドクリームのような荒れ性の肌によいクリームをすり込むことで、多少は早くやわらかくなってゆきます。

人工皮膚と培養皮膚

植皮も範囲が狭ければ、自分の皮膚で間に合いますが、重症の熱傷で広範囲のカバーが必要なときはどうすればよいのでしょう。

一つは、いわゆる人工皮膚で一時的に覆っておき、順次自分の皮膚を採取して、置き換えていく方法です。

いま一つ、最近注目を浴びているのは、培養皮膚です。

これは患者本人の皮膚をごくわずか採取し、体外で促成培養して、本人に戻す方法です。

これらについては皮膚再生医学の項をご覧ください。

 

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